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大エルミタージュ美術館展~オールドマスター 西洋絵画の巨匠たち 2017年4月8日(土)

会期
 2017年3月18日~6月18日
会場
 森アーツセンターギャラリー
感想
…入場券売り場に着いたら行列ができていてびっくり。前日から始まっていた森美術館「マーベル展」の来場者だったようです。最近こうしたサブカルチャー系の美術展がちょくちょく開催されていますが、人気があるんですね。私はエルミタージュ展だったので、すぐに中に入れました。良かった。
…エルミタージュ展は2012年に国立新美術館で開催されていたのを見に行った記憶があって、ちょっと調べたら主催や特別協賛、協賛が同じ顔ぶれでした。エルミタージュ美術館と繋がりがあるチームなのかな。前回は20世紀美術まで幅広く網羅していて、マティスの「赤い部屋」が来日したんですよね。今回は16~18世紀に絞っての出品ですが、ティツィアーノレンブラントもそれぞれ別の作品で、前回と被っていた作品はなかったように思います(記憶だけなので間違いだったらごめんなさい)。さすが、膨大なコレクションを誇るだけあります。
…会場に入ると、「戴冠式のローブを着たエカテリーナ2世の肖像」が出迎えてくれます。歴史の教科書なんかで目にする女帝エカテリーナですね。ロシアで大帝と呼ばれるのはピョートル1世とエカテリーナ2世だけだそうです。エルミタージュの基礎を築いたエカテリーナ2世ですが、「エルミタージュの絵に見とれているのは私とネズミだけ」なんて言葉も残しています。エルミタージュ=隠れ家は政務で多忙な女帝の休息の場だったのでしょう。
ティツィアーノ「羽飾りのある帽子をかぶった若い女性の肖像」は肩をはだけた女性の瑞々しい肌が露わになっている官能的な作品です。女性の首元を飾る真珠と、白くても血の気の通った肌の色合いの絶妙な差が見事ですね。この絵は特定の個人の肖像というよりある種の美人画で、クラーナハの聖母と比べてみると、時代や地域による美人の違いが感じられて面白いです。なお、大きな羽根飾りのついた帽子や羽織っている上着は実は男物。いわゆる彼シャツで、そんなところは現代と同じなんだなと妙に納得しました(苦笑)。
レンブラント「運命を悟るハマン」に描かれているハマンは、ペルシャのクセルクセス王の家臣で、ユダヤ人王妃エステルの養父モルデカイが自分に跪かないという理由でユダヤ人を虐殺しようとした傲慢な人物です。しかし、大きなターバン、華やかな赤い服からはハマンの権勢が伺えるものの、諦観した表情からは静かに運命を受け入れているように見えます。レンブラントはハマンを特殊な悪人ではなく、愚かさも人間らしさも備えた普通の人間として描いたのではないでしょうか。
…17世紀のオランダでは、富裕な市民の住居を飾るために風景画が生まれました。アールト・ファン・デル・ネール「月明かりの川の風景」では雲の切れ間から昇る満月に照らし出された風景を描いた作品です。遠くの街並みを背に川面には夜釣りの船が浮かび、奥の土手で牛がゆったり草を食んでいる夜景は素朴で叙情的です。都市で生活する人々はこうした自然豊かな田舎の風景を好んだそうです。
…ムリーリョ「羊飼いの礼拝」は、天使のお告げに従って訪れた羊飼いたちが、生まれたばかりのイエスを礼拝する聖書の場面を描いた作品です。狭い馬小屋の中で身を寄せ合い、それぞれに喜びに満ちた笑顔で礼拝する羊飼いたち、そして静かな微笑でイエスを見下ろすマリア。闇の中に浮かび上がる人々と情景の静謐さがジョルジュ・ド・ラ・トゥールの作品を思い出させますが、彼らの顔を照らし出す光源はろうそくではありません。よく見ると幼子自身が光り輝いていて、世界を照らす光はイエスの存在そのものであると分かります。
フラゴナール「盗まれた接吻」にはドラマチックな恋の一場面を描かれています。突然扉の陰から現れた恋人に素早く身を寄せる女性の胸元では薄い布地のスカーフがなびいていて、まさにスナップショットのようですね。「盗まれた接吻」はフラゴナールの妻の妹マルグリット・ジェラールが女性のドレスなどを手がけたとされていますが、会場ではこの作品の隣にルイ=レオボール・ボワイーの「女性画家」が展示されていて、マルグリットもこんな感じだったんだろうかと思わず見比べてしまいました。
…クロード・ロラン「トビアと天使のいる風景」は父の使いでメディアに向かったトビアが道中ティグリス川で巨大な魚に襲われ、これを捕らえた聖書の場面を描いたものです。しかし、登場人物であるトビアと大天使ラファエルは画面手前に小さく描かれているにすぎません。彼らはこの作品を成立させるためのエクスキューズであり、川岸の木立とその向こうに開けた夕暮れの空、暖かな色に染まった穏やかな風景こそがこの絵の主役なのです。
…会場出口手前には映像コーナーがあって、エルミタージュ所蔵の美術品に加えて絢爛豪華な建築と、絵本のように綺麗なサンクト・ペテルブルクの街並みを見ることができます。先日のテロのニュースは本当にショックでした。芸術を楽しめるのも平和だからこそなんですよね。犠牲になられた方々に謹んで哀悼の意を表します。