ゴッホ展~巡りゆく日本の夢 感想

会期
…2017年10月24日~2018年1月8日
会場
東京都美術館

gogh-japan.jp


感想

  •  概要
  • 「花魁」
  • 「アイリスの咲くアルル風景」他
  • 「サント=マリーの道」
  • 「水夫と恋人」/「ポプラ林の中の二人」
  • 「花咲くアーモンドの木」他
  • 日本人とゴッホ
  • その他

 

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シャガール 三次元の世界

会場
東京ステーションギャラリー
会期
…2017年9月16日~12月3日

www.ejrcf.or.jp


感想

  • 概要
  • リアリスト
  • 人の目をした動物たち
  • 二重肖像
  • 立体作品
  • その他
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生誕160年 マックス・クリンガー版画展

会場
神奈川県立近代美術館葉山館
会期
…2017年9月16日~11月5日

生誕160年 マックス・クリンガー版画展:神奈川県立近代美術館<葉山館>

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パリ・グラフィック ロートレックとアートになった版画・ポスター展

会場
三菱一号館美術館

会期
…2017年10月18日~2018年1月8日

mimt.jp

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怖い絵展

会場
…上野の森美術館
会期
…2017年10月7日~12月17日

 

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オットー・ネーベル展

会場
Bunkamura ザ・ミュージアム
日にち
…2017年10月7日(土)
会期
…2017年10月7日~12月17日
感想
…オットー・ネーベルはドイツ出身のスイスの画家で、日本で回顧展が開かれるのは初めてだそうです。私もこれまで名前を知りませんでしたが、リーフレットに用いられていた作品、特にその色合いの美しさに惹かれるものがあって予備知識ゼロにもかかわらず見に行きました。実際に作品を目にして、極めて緻密に線や点を重ねて微妙なニュアンスのある色合いが生み出されていること、作品により質感がこってりとしていたりざらざらしていたりと違っていて面白いこと、一つ一つがきっちりと完全に仕上げられていて、即興的ではなく考え抜かれて作り上げられていることが分かりました。専門家の方がネーベルの作品を堅牢、と評されていましたが、まさに建築物のように堅牢な画風です。
…ネーベルの作品は色彩のバランスが優れていて、色の組み合わせが自在でありながら目に心地よく感じます。また、例えば同じ青色でも「聖母の月と共に」の海の底のような穏やかで深い青緑色、青白い月光が差し込んでいるような静謐さを感じる「青い広間」、「トスカーナの町」の明るく澄んだ空を思わせる軽快な空色と多彩で、その色ごとの趣があります。そうした色彩は微細な線や点の集積から成っています。「夕暮れる」では画面を埋める青や緑やピンクの細い斜めの線(ハッチング)によって、バラ色に染まった風景と海辺の町の陰りを描いています。混色して塗り潰していないため、色彩に揺らぎがあるのに透明感が感じられるのでしょうね。
…また、ネーベルの作品では多様な画材が使われています。油彩、グアッシュ、テンペラと、あくまで私の印象ですが、他の画家の場合はメインとなるものがある程度はっきりしているのに比べて、ネーベルは万遍なくバラエティに富んでいるように思います。「啓示されたもの」という作品を会場で見たとき、背景の暗い地から赤みを帯びた色が透けてきらきら輝いていたので、どうしてだろうと思ったら金箔が使われていました。あらゆる材料を使いこなし、求める効果を得るための工夫を欠かさない姿勢からは、関心の広さや徹底した仕事ぶりが窺われます。
…個人的には「建築的景観」や「大聖堂の絵」、「千の眺めの町」といった作品に興味を惹かれました。「建築的景観」は一種の風景画と言っていいのでしょうか、実景に忠実に描くのではなく、屋根や壁など建物を形作る線や面が抽出されて再構成されているのですが、脳裏に浮かぶ残像のような不思議な既視感があります。ネーベルは若い頃建築技術を学んでいたそうで、たとえば海辺を描くとしても、前景・中景とも町並で、海は建物の屋根越しに見える水平線であったりと、建築物への強い関心が窺われます。
…ネーベルはイタリアに旅行した際、各都市の光と色彩の特徴をカタログ化した「色彩地図帳」を作成します。光と色彩というと、私は印象派が頭に浮かぶのですが、印象派の場合、目(感覚)と光(色彩)と対象は同一の次元に存在していて、目に見えるままをキャンバスに写し取ることを追及していました。これに対して、ネーベルの色彩は感覚を媒介に抽出された観念的なもので、対象とは異なる次元にあるようです。「色彩地図帳」は、まだ現実のイタリアの都市という対象と結びついていますが、後年のネーベルの色彩は対象から解き放たれて、画家の精神と直接結びついたものになっていきます。
…西洋絵画は、特に近代以前の作品の場合、何が描かれているのか理解するのにしばしば聖書や神話の知識が必要になります。逆に言えば、そうした知識を手がかりに描かれた物語を読み取り、作品を味わうことが可能でもあります。しかし、描かれた内容ではなく作品そのものに価値がある、対象ではなく色や形自体の美しさを表現したい、それを突き詰めると対象そのものが画面から消失するのでしょう。ネーベルはルーン文字易経アラビア文字なども作品に取り入れていますが、一種謎めいた文字や記号に形象の担う象徴性や、音と形の神秘的な結合などを新鮮な感覚で見出したのだと思います。ネーベルの作品はそうした形や色彩に対する画家の根源的な探求の足取りをとどめたものと言えるかもしれません。
…ネーベルは絵画に加えて建築、詩文、演劇とマルチの芸術家でもありました。ナチスによる前衛芸術排斥から逃れてスイスに移住したネーベルは、舞台俳優として収入を得ていた時期もあるため、スイスの少し前の世代には画家よりも俳優として知られていたそうです。
…ネーベルは同じようにスイスに逃れてきたパウル・クレーと家族ぐるみで親しく交流しています。当時の交流について記されたネーベルの日記からは十三歳年長の「マイスター・クレー」に対する親愛や尊敬の念と、画家としての自負が感じられます。苦しい境遇にあっても、意欲を失わずに制作が続けられたのは、互いに刺激し合う良き友人の存在も大きかったことでしょう。クレーやカンディンスキーは20世紀を代表する画家として広く名前を知られていますが、今回こうしてネーベルの名を知ることが出来て良かったと思います。
…会場内には十数分ほどの映像コーナーがあり、クレーとの交流に焦点を当てつつネーベルの作品や人柄を紹介していて、作品を見る上で参考になりました。音声ガイドはありません。また、作品保護のため会場内の温度がかなり低めです。色々な素材が使われていますから、中には傷みやすい作品もあるのでしょうね。係の方にお願いすればブランケットを借りることができますが(私も借りました)、予め羽織れるものを用意していくことをお勧めします。

生誕140年吉田博展 ~ 山と水の風景

会場
東郷青児記念損保ジャパン日本興亜美術館
日にち
2017年8月3日(木)
会期
…前半:2017年7月8日~30日
 後半:2017年8月1日~27日
感想
…実は今まで吉田博を知りませんでした……ネットで偶然見かけた作品に惹かれて出かけたのですが、なかなかの人気ですね。平日でしたがお客さんは多かったです。会場入口に映像スペースが設けられていましたが(この美術館では珍しいです)満席でした。ただし、会場内は観覧スペースに余裕があるのと、作品が多くてお客さんがばらけていることもあってじっくり絵をみることはできました。
…展示数は181点で一般的な特別展より多いのですが、会期の前半/後半のみに出品される作品がそれぞれ66点あるため、東京の会場に限っても総出品数は247点。非常に大規模な回顧展で、これだけまとめて吉田博の作品を見ることが出来る機会はまずないと思います。展示の入れ替えをする理由としては、展示スペースの都合がまず考えられますが、そのほか出品者の事情や、油彩に比べて保管の難しい水彩画などは短期間の展示になっているのだろうと思います。図録は買いましたが、前半も行きたかったですね。
…個人的には水彩画が良かったです。日本の風景っていいなと思いました。技巧やモチーフについて、奇をてらわず写実に徹しているところが見やすいんでしょうね。対象への誠実なアプローチが、見慣れたはずの風景に美しさの再発見をもたらすのだと思います。それと、雨上がりであったり川のそばであったりと、水の気配がする風景が多くて、画面全体に漂う靄のような空気感と言うか、湿度が高い日本特有の風土がよく表現されていると思います。
…また、吉田は水辺の風景と共に、山を描いた作品も多いのですが、山の頂から眼前の尾根や雲海を目の当たりにしたような画面は臨場感に迫力十分で、当時の人はもちろん、現代の空撮映像に慣れた目で見ても風景のただ中にいるかのような臨場感にあふれています。
…吉田博は今日何よりも版画家としてよく知られているそうです。版画は通常下絵を描く絵師、版木を彫る彫師、紙に刷る摺師による分業で制作されるのですが、吉田は彫師や摺師の作業も監督して納得いくまで緻密な制作に取り組んでいたようです。同じ版木で色を変え、時間の経過を表現した「帆船」のシリーズなどはモネの連作を想起させますね。一般的な版画の摺り数が十度ぐらいなのに対して、吉田の版画は平均三十数度、中には百度近いものもあるとか。関係者のインタビュー映像で、吉田は絵を描くように版画を作っていたと語られていましたが、ブリューゲルが唯一自身で作成した版画「野ウサギ狩り」を見たときもそのように感じたことを思い出しました。量産が可能な版画は芸術であると共に製品の一面があり、プロの彫師や摺師の作業は一定の規格化がなされているのでしょう。しかし、オリジナルな作品を制作する画家は絵画と同様に、線や色の一つ一つに個性と根拠を求めるのだと思います。吉田の描く風景は画題により繊細であったり雄大であったりしつつ、どれも心穏やかに見られるものが多いのですが、それらの作品は自然を写し取る透徹した眼差しと気の遠くなるような緻密な作業の積み重ねに裏付けられていて、まさに「絵の鬼」だと感じました。
…ところで今回の出品作はいずれも日本の美術館または個人(図録に掲載されているお名前を確認した限りでは)の所蔵のようですが、吉田は生前欧米での評価が高かったとのことですから、海外でも優れた作品が所蔵されていそうです。吉田が渡米して初めて展覧会を開催したデトロイト美術館とか。ちょっと見てみたいですね。生誕150年の節目に里帰りするのを期待したいと思います。